なぜ壊れたカードが刷られるのか

Ⅰ はじめに
(本記事はふるよに Advent Calendar 2022 – Adventarの参加記事です)

僕が好きなだけで決して壊れていません

 なぜ壊れたカードが刷られるのでしょうか。小学生以来、カードゲームをそこそこ遊んできた身としては不思議でなりませんでした。

 しかし、4年ほど前よりLCG「桜降る代に決闘を」(※)シリーズのバランス調整に有志として携わるようになり、壊れたカードを刷る側に回る貴重な体験を得て、考えを変えるに至りました。

 残念ながら、人類にカードゲームの完璧なバランス調整は不可能なのです。人類Ⅲぐらいになれば可能になるかもしれませんが、少なくとも現生人類には実現不可能です。そして、バランス調整に失敗した部分が顕在化する一つの形が「壊れたカード」としてプレイヤーの皆様に襲い掛かるわけです。

 自分はあくまで同人レベルのゲームのバランス調整に協力させていただいた程度の身で、プロとして活動されているレベルデザイナーには技量・経験とも遠く及びません。ですが、一般プレイヤーよりかは感じてきたことがあるかとも思いますので、アドベントカレンダーという機会にまとめてみたものが、本記事になります。

※LCG(買切型のカードゲーム)作品。事前に選択したカードプール内から、対戦相手のカードプールを確認後にデッキ構築を行ってから対戦を行うルールが最大の特徴。山札概ね6枚を毎ターン2ドローすることもありカードゲームとしては運要素が最小化されていて大変面白い。今すぐ始めよう。
新幕 桜降る代に決闘を

Ⅱ バランス調整は必ず失敗する

 流通するカードゲームにおいて、バランス調整において行われる研究量は必ず一般発売後の研究量を下回る。当然のことである。

 そのため、バランス調整では調整対象のカードパワー(≒一般発売後の暴れ具合)をどれだけ誤差なく見積もれるかという作業になる。

 ここで難しいのが、カードの強さはそのカードのテキストだけではなく、他のカードとの相性などにも左右されることだ。他のカードやゲームシステムの変更がテキストを据え置いているカードに及ぼす影響は概して見積もりづらく、さらにそれをすべて調べる工数は無いことが多い。

りそうのばらんすちょうせい

 何も起こらなければ、最悪想定の上限値を叩いても「強いカード」どまり、めでたしめでたしとなる。

 しかし、当然破綻するパターンがある。以下3つが壊れカードが刷れるベスト(?)プラクティスである。

①想定がそもそもおかしい

 はい。私は現生人類なので。真っ先に思いつく理由であり、当然発生する。

 今までにないメカニズムを実装した結果、テストプレイヤーがそれを生かし切るためのプレイングを発見できていなかった場合が多い。

 他にも強力すぎたカードにナーフを繰り返したことで、往時より大幅に劣る威力にすっかり意気消沈していたが、よく考えるとまだめちゃくちゃ強かった(誤差棒の上方向を低く見積もっている)パターンなどもある。

 自分はカードゲームの壊れカードの90%ぐらいこれなのではないかと自分でやり始める前は思っていたのだが、体感意外と少ない。なぜならば、テストプレイヤーも必死にテストしているからである。いやほんとに。

すまん、見落とした

②なんか上振れた

 なんかってなんだよ。パターンとしては

  1. 弱い想定だったメカニズムを強化した結果、関係カードが壊れる
  2. そのカードを抑制する存在が調整環境に存在したため見過ごされていたが、抑制が外れてしまったため大暴れ
  3. あずかり知らぬところで超絶コンボ爆誕

 などがあげられる。実際に調整で発見しきれず全てが世に出るわけではないもの、調整中に発見されつぶされるパターンも多い。

 これを0にしようとすると、テストプレイヤーが全ての相互作用に気がつける程度の複雑性がゲームの限界になるため、どうしても0にはできない。

わりとありがち

③時間がなかった

 非常に人間的かつありがちなパターン。もちろん、初めから時間がなかったわけではなく、調整中の変更などにより十分な時間が取れない場合がある。

 特に、調整中盤以降になってから弱すぎるメカニズムを救うために強めのカードを供給しようとした結果、上限を叩いてしまい爆散というケースが多い。

むしろ正確に見積もれているので、優秀なテストプレイヤーかもしれない。

Ⅲ 「壊れたカードが刷られる」のはよりマシな未来だから

 壊れたカードを最小限に抑える有効な手段には以下がある

  1. 複雑な挙動・相互関係を減らす
  2. カードパワーを平均化し、強いカード(軸になるカード)を作らない
  3. 迷ったら弱い方向に倒す

 つまり、単純で似たようなカードをデザインし、安全にカードを制作すればいいのだ。失礼しました、クソゲーができてしまいました。

 1と2に関してはゲーム性への寄与を考慮してのリスクリターン評価をしてくれとしか言えないが、問題は3である。これがレベルデザインで最も危険な思想なのではないかとすら思うに至った。

 第一弾以降の、既存の環境にカードを追加していくタイミングにおいて弱い方向に倒すという手段は非常に安心安全無農薬有機栽培となる。狙ったパワーに収まったカードはそこそこ使われるし、弱かったカードは使われず、環境に影響を与えない。

 これはいいように見えて、環境への変動が少なくなりすぎる。十分環境が動くほどパワーバランスが適切なカードを供給できるならいいが、通常そんなリソースはないし、そこまでリソースがあるなら弱い方向倒さなくてもいいはずだ。

 上記1~3をすべてやらない場合、現実世界と同じ確率で壊れたカードが刷られることがあるが、致しかたないのではないだろうかと思う。

 通常カードゲームには禁止や制限などの刷ってしまった壊れたカードを環境から排除する手段を持ち合わせる。一方で、弱すぎたカードはエラッタなどプレイヤーに負担が大きい方法などでしか救えない。この点も失敗を「壊れたカードが刷られる」結果を許容することにつながる。

Ⅳ……と思うのは自分がLCG畑だからかもしれない

 LCGが性質上、全カードをプレイヤーが持っている前提で考えられる。ここに壊れたカードがあることで環境が悪化している場合、それを禁止することで環境が改善すれば全プレイヤーがもともと遊べたゲームが、より楽しいゲームとなるため基本的に全員が幸せになれる(好きなカードが禁止される、競技大会までに行っていた研究が無に帰すなどマイナスもある)。

 一方で、TCGとなってくると、二次流通市場の存在や概ね高額になる壊れたカードを買ったプレイヤーの資産的な問題などが入ってくるため、LCGほど容易ではないのだろう。

 自分は紆余曲折の末、振る代にの禁止カード指定に関わる立場になってしまったが、生活がかかっていない立ち位置ですら禁止カードを出すのは心苦しいものがある。

Ⅴおわりに

 最近趣味で文章を書く機会がないから何か書いてみるか、と軽い気持ちでアドベントカレンダーに申し込んでみたはいいもの、12月に入ってから私事で全く時間が取れなくなってしまいました。推敲および校正が全然できていないので、お見苦しい点ございましたらご容赦ください。

 今後も降る代にを皆様に楽しんでいただけるよう、一個人として支えて行こうと思っております。ミコトの皆様も是非、今後も降る代にを楽しんでいただければ報われる思いです。